
猫の認知症の症状とは?よく見られる7つの変化とケアについて
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人間の認知症のように、場所が分からなくなって徘徊したり、トイレを失敗したり、性格が攻撃的になったりなどのような行動が、猫にも見られることがあります。このような行動は、認知機能不全症候群、あるいは高齢性認知機能不全とよばれる病態の特徴的な症状として扱われ、いわゆる猫の認知症と言われています。しかしながら、高齢の猫がすべてそうなるわけでもなく、認知症の猫では「いわゆる単純な老化現象」だけではなく、それ以外の何かが体に起きている可能性があります。
猫の認知症は新しい研究分野
猫の認知症はまだまだ研究が進んでいない分野で、時には飼い主のみならず獣医師でさえこの疾患を誤解して、診断不足や治療不足を招くことがあります。今ではかつてに比べると猫も長生きになっていて、認知症と診断されるケースも増えてきています。
認知症の猫は、老年性認知症またはアルツハイマー病の人と似たような徴候を示します。人の認知症治療の進歩を踏まえて、獣医療関係者は猫の認知症について自分たちに何かできることがないか模索し始めています。
猫の認知症リスクは何歳から高まる?
猫の認知機能の低下については個体差が大きく、環境や遺伝、健康状態によって発症時期が異なってきます。一般的には、10~15歳の間で初期症状が見られはじめることがあります。15歳以降になると発症率が大幅に上がるとされています。
猫の認知症の徴候(初期症状含む)
他の臓器と同様、脳も年齢とともに衰えていきます。猫の脳は、10歳から15歳の間に加齢による損耗の徴候が現れ始めることが多く、その後、疾患進行とともにこれらの徴候が加速度的に目立つようになっていきます。
猫の認知症の典型的な徴候には次のようなものがあります。
- 全般的な見当識障害(壁や空間をじっと見つめる、部屋の角で行き詰まる、家の中で迷うなど)
- 目的が分からずに歩き回る。今までだったら、同居猫のなわばりを理解して行動していたのに、それが認識できなくなる、あるいは庭から外には出ないことを理解していたはずなどに、わからずに出て行ってしまうなど。
- 遊びに対する関心の低下
- 睡眠および覚醒サイクルの変化(人間の活動にはお構いなしで一晩中起きていて日中ずっと眠っているなど)
- 食物、水、同居猫や人との交流に対する関心の低下
- トイレ以外の場所での排泄、我慢ができなくなる
- よく鳴くようになる(特に夜間に大声で鳴くなど)
猫の認知症はまだ不明な点が多く、特定の神経障害に起因するのか、あるいは人で確認されているプロセスと同一なのか、治療は可能なのか、といった疑問に対する答えを、獣医学ではまだ探っている最中です。
猫の認知症に影響を与える他の疾患
猫の老年性疾患には、認知症と臨床兆候が似ている、あるいはほぼ同じ兆候を示すことがあり、認知症の兆候をさらに悪化させてしまうものがあります。これらの疾患は、同じライフステージで発生する傾向があるため、見逃されやすいかもしれません。認知症を悪化させたり、その発症や進行を早めたりする可能性のある疾患をご紹介します。
甲状腺機能亢進症
これは高齢の猫で診断されることの多い疾患で、甲状腺が過活動状態となって、ホルモンを過剰に産生します。甲状腺ホルモンは、体の代謝を活発にする働きがありますが、過剰になると脳を含む体内器官の機能を妨害することがある、とコーネル猫ヘルスセンター*¹ は説明しています。この疾患の症状の一つには食欲の増進があり、罹患した猫は食べても食べても食べ物をねだるようになることがあります。また、それだけ食べていても体重が減少したり、被毛に艶がなくなる、活動性が高まる、落ち着きがなくなる、頻繁に鳴くなどといった典型的な症状があります。加えて、ぼんやりした精神状態などが見られることもあり、これらは認知症の症状に似ています。甲状腺機能をチェックするための血液検査と、必要に応じた画像の検査により診断されます。
高血圧症
猫も高血圧になることがあります。コーネル猫ヘルスセンター*² によると、その原因として一番多いのは腎臓病と甲状腺疾患とのことです。高血圧は、結果的に脳にダメージを与え、認知症の徴候と同じような行動変化を引き起こしたり、既存の認知症を悪化させたりするおそれのある脳内変化につながることもあります。猫の血圧測定については、かかりつけの動物病院に相談しましょう。
耳が遠くなる、感覚が鈍くなる
猫も高齢になると、耳が遠くなります。聞こえにくくなると、自分の声のボリュームがわからず、その場に合わない大きな声で繰り返し鳴いたりすることがあります。また、人間でも高齢になって耳が遠くなり、環境内の聴覚的な手がかりを認知しにくくなると、見当識障害を起こしやすい傾向がありますが、それと同様に、猫でも耳の聞こえにくさが認知機能不全の一因となることがあります。また、高齢猫では目が見えにくくなることも、こういった混乱した行動の一因になりますが、その混乱は通常、耳が聞こえにくい場合よりも深刻になりがちです。
関節炎またはその他の慢性疼痛
多くの猫は、不快感を感じたときに人間の様に自ら訴えることはしません。猫は一般的に生き残るためのメカニズムとして不快感を隠す ことを選択しますが、認知症のような兆候のある高齢猫が痛みを感じたときには、かえって普通よりも目立つ徴候を示すことがあります。それには、なでられるのを嫌がる、明らかに調子が悪そうに見える、攻撃的になる、不安な素振りを見せる、鳴き声を上げるなどがあります。
脳腫瘍またはその他の神経系疾患
認知症の徴候を示している高齢猫では、脳腫瘍という可能性も鑑別リストに入ってきます。脳腫瘍を疑わせる症状には、痙攣発作や虚脱といったいわゆる発作性の症状から、協調運動失調や「見えない」ものに反応するといったありとあらゆる種類の異常行動が含まれます。そして、認知症に似た徴候を引き起こす可能性のある神経系疾患はほかにも多くあります。
猫に認知症の症状が見られる場合のケア
このように、認知症のようにみえる兆候は、認知症のほかに、別の疾患や状態が関係していることもあります。ですから、理想は、認知症の徴候を示しているシニア猫には、認知症に似た疾患や認知症に付随する可能性のある疾患の検査をすべて受けさせたいところです。ここでは、認知症または混乱した様子の行動が見られる猫のために、その安全を守り快適な生活を維持するために飼い主ができることを挙げておきましょう。
- 室内飼育を徹底し、屋外に出ていってしまわないように注意する。
- 猫が基本的な状況把握をしやすいように、食事の時間や、消灯する時間を規則正しくするように心がける。
- 家庭内の大きな変化(新しくペットを迎え入れることや引っ越しなど)を避ける。
- 脳の健康に重要な栄養素であるビタミンEや抗酸化物質を含むフードを与える。高齢猫のフードについてはこちらをご覧ください。
- トイレを使いやすいようにスロープを取り付けるか、高さの低いトイレに取り替える。
- 高齢猫が休みやすいスペースの数を増やす。猫の行動範囲の中で、休憩しやすい場所を確保して、猫用のベッドなどを置く。
- 定期的に獣医師の診察を受ける。
愛猫が認知症の徴候を示していることに気づいたら、できるだけ早く獣医師に診てもらうことがとても重要です。それは、このような行動は「ただの猫の老化現象」ではないことも多いからなのです。もしかしたら、別なケアが必要な別の病気かもしれません。また、猫の行動がいつもと異なることを判定するのは人間の場合ほど容易ではありません。愛猫の普段の正常な行動を飼い主がよく理解することで、異常に早く気付き、それが猫の認知症診断への重要な第一歩になります。
参照先:
*1 https://www.vet.cornell.edu/departments-centers-and-institutes/cornell-feline-health-center/health-information/feline-health-topics/hyperthyroidism-cats
*2 https://www.vet.cornell.edu/departments-centers-and-institutes/cornell-feline-health-center/health-information/feline-health-topics/chronic-kidney-disease
筆者紹介

パティ・クリー獣医師
ウェルズリー・カレッジとペンシルベニア大学獣医学部をともに優秀な成績で卒業。VMD/MBA二重学位プログラムの一環としてウォートン・ビジネススクールでMBAを取得。現在はフロリダ州マイアミのサンセット・アニマル・クリニックのオーナー。さらに、大の読書家でもあり、熱烈な編み物マニア、そして熱狂的なホットヨガファン、音楽マニア、市民ランナー、飽くなき美食家の顔ももつ。犬3匹、数え切れないほどの猫、2頭の保護ヤギ、そして愉快な雌鶏たちとサウスマイアミに居住。
著作は DrPattyKhuly.com と SunsetVets.com. に掲載。