犬の言葉や感情、ボディランゲージ。犬はどれだけ理解できるの?

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何千年もの間、人間のもっとも身近な伴侶として過ごしてきた犬。私たちと一緒に暮らし、ともに働き、家族の一員として迎えられてきました。でも、犬は本当に私たちの言葉や感情を理解しているのでしょうか。もちろん飼い主はそう確信していますが、科学者や専門家たちの間では、犬が飼い主を理解しているように見えるのは犬の学習行動に過ぎず、その行動に飼い主が人間の性質を投影しているだけだと長年考えられてきました。しかし、近年の新しい研究は「犬は人間を理解できるのか」と再び問いかけています。

犬の認知力に関する研究

人類は長年にわたり犬と親密な関係を築いてきたという事実にもかかわらず、犬がどのように考え、どのように情報を処理しているかという研究はごく最近まで行われていませんでした。エモリー大学の神経科学者グレゴリー・バーンズは著書「犬の気持ちを科学する」の中で、この研究分野の先駆者として1800年代の科学者チャールズ・ダーウィンを挙げています。ダーウィンは、3本目の論文「人及び動物の表情について」において、犬と犬の感情表現、ボディランゲージについてたくさんの記録を残しています。科学サイトPhys.orgでは、現デューク大学進化人類学准教授であるブライアン・ヘアがエモリー大学の学部生だった頃に行なった1990年代の研究が現代的な研究の幕開けだったと指摘しています。しかし、この分野の研究が実際に盛んに行われるようになったのは2000年代に入ってからのことでした。今日では、犬がどのように人間の言葉や感情、ボディランゲージを理解し、感じているのかを報告した新しい研究が日常的に発表されています。この研究分野があまりに人気になったため、デューク大学ではヘア博士の指揮のもと、このテーマの研究を行う犬の認知学センターを開設したほどです。

犬は人間を理解している?

では、これらの新しい研究によってどのようなことが明らかになったのでしょうか。犬は私たちのことを理解できるのでしょうか。結論からいうと、犬が自分たちを理解しているという飼い主の主張は、少なくとも部分的には正しいようです。

言語の理解

Little girl lying on her lawn with her small dog lying on his back next to her2004年、Science誌にリコという名前のボーダーコリーに関する研究が発表されました。リコは、新しい言葉を”高速マッピング”するという並外れた能力を証明してみせ、科学界に旋風を巻き起こしました。高速マッピングとは、1回聞いた言葉の意味について基礎的な仮説を立てる能力のことです。発話能力が発達中の幼い子供で、一般的に認められる能力です。リコは、200種類以上の物の名前を覚え、その単語を最初に覚えてから4週間たっても名前だけで認識を行い、取ってくることができました。

イギリスのサセックス大学で行われたより最近の研究では、犬は私たちの会話の中の感情シグナルを読み取るだけでなく、意味のある単語とでたらめな単語とを区別できることが明らかになりました。2014年にCurrent Biology誌に発表された本研究では、犬は人と同じように脳の異なる部位を使ってこれらの言語の処理を行っていることが明らかになったのです。具体的いうと、犬は右脳で感情シグナルを処理し、左脳で言葉の意味を処理していることがわかったのです。

ボディランゲージの理解

2012年にPLOS ONE誌に掲載された研究では、犬が人間の非言語的コミュニケーションを理解し、それらの影響を受けていることが示されています。この研究では、犬に量の異なる2種類の食事を提供。自分だけのときは、ほとんどの犬が大きい方の食事を選びましたが、人が加わるとこの様子に変化が現れました。人が小さい方の食事に好意的な反応を示すと、犬はそちらの方を好むようになったのです。

2012年にCurrent Biology誌に発表された別の研究では、ハンガリーの研究者たちが人間の微妙なコミュニケーションを理解する能力が犬にあるか検討を行いました。この研究では、犬に2つのバージョンのビデオを見せました。1つ目のビデオでは、女性が現れ、優しい母親の口調で「こんにちは、ワンちゃん!」と語りかけながら犬を見たあと、近くのポットに視線を移しました。もう1つのバージョンでは、女性は下を見たままで、抑えた声で話しかけてからポットに視線を移したという点だけを変えてありました。犬に1つ目のビデオを見せると、犬が女性に注目し、女性の視線を追う様子が確認されました。研究者たちは、この反応に基づき、犬が直接話しかけられ、自分に向けて情報が発信されている状況においては、6〜12ヶ月齢の人間の赤ちゃんと同程度の認識能力を持つと結論づけました。

先ほど紹介したデューク大学 犬の認知学センター長であり、1990年代に自身でもエモリー大学の学部生として犬と社会的手がかりの研究を行ったヘア博士にとっては、この結果は驚くものではなかったでしょう。Phys.orgによると、指さし、体の向き、目の動きといった微妙な合図を理解するのは、人類にもっとも近縁のチンパンジーや人の子供と比べても、犬の方が優れていることがヘア博士の研究から明らかになっているそうです。

感情の理解

Woman presses her head against her beagle's.2019年に入り、犬が人間の感情を認識および理解する能力を持つことを発見し、英国王立協会誌Biology Lettersに発表された研究が大きなニュースになりました。英国リンカーン大学とブラジルのサンパウロ大学の共同で行われたこの研究では、犬がポジティブな心の状態とネガティブな心の状態について抽象的な心的表象を形成することが明らかになりました。

この研究では、幸せそうにしている人と犬の画像、または、怒っている人と犬の画像を犬に見せました。画像には、幸せそうな音声または怒っているか攻撃的な音声がつけてあります。音声と画像の感情が一致していた場合、犬が画像の表情を観察していた時間が長いことがわかりました。

ただし、この研究に参加していた研究者の一人であるリンカーン大学心理学部のKen Guo博士によると「犬が表情などのシグナルから人の感情を区別できることは以前の研究でわかっていましたが、これは感情を理解しているということとは同じではありません」とのことです(ScienceDailyより)。

今回の研究では、異なる2種類の感覚を組み合わせることで、犬が人間の感情を認識し、理解する能力を実際に持っていることを示すことができたのです。

なぜ犬は私たちを理解できるの?

犬がこれほどまでに私たちを理解できる理由は謎のままです。でも、多くの研究者は必要性と進化の産物ではないかと推測しています。犬と人間は、何千年もの時間、すぐ近くで一緒に暮らしてきました。その間に、他の動物では類を見ないほど日々の暮らしを私たちに頼るようになったのです。選択的交配が関与している可能性もあります。明らかに認知能力に関与する特定の性質を選んで犬を繁殖してきたためです。いずれにせよ、私たちのすぐそばで一緒に暮らし、私たちに依存するようになった動物種が、私たちを理解し、コミュニケーションをとるための能力を発達させたというのは納得ができる説明です。

あなたとあなたの愛犬にとってはどういう意味を?

犬があなたの言葉やコマンドだけでなく、感情表現も読み取る能力を持つことがお分かりいただけたと思います。では、このことがあなたとあなたの愛犬にとってどういう意味を持つのでしょうか。1つ目は、愛犬が「おすわり」「待て」「お手」以外の言葉を学習する能力を確実に持っているということを意味しています。上述のリコ、そして1000語以上の言葉を学習したチェイサーという犬も話題になりましたが、犬は何百もの言葉を覚えるという驚くべき能力を持っています。チェイサーの高速マッピング能力は実にたいしたもので、状況に応じておもちゃを選ぶこともできるのです。おもちゃの山の中から今までに聞いたことのない名前のものを取ってくるよう指示すると、今まで見たことのないおもちゃがそれに違いないと理解するのです。チェイサーの能力は、私たちの伴侶である犬がどれほど賢いかを証明しています。

また、犬は空気を読む能力もあるということも犬の認識能力で大切なポイントです。あなたが大変な思いをしている日には、愛犬がそばを離れず、いつもよりくっついてくることはありませんが?「大変なのはわかっているよ、僕はいつでもそばにいるからね」とあなたに伝えようとしているのです。このことを知っていれば、お互いの心の状態にどう反応すればよいかを学び、真の家族のように調子のいい時も悪い時も共有することで愛犬との絆を深めていくことができます。

犬は私たちを理解できるのでしょうか?ええ、いろいろな方法で理解してくれています。次に愛犬に話しかけている時に自分の話を本当に聞いているように感じたら、それはあなたの妄想ではないことだけは確かです。単語の一つ一つや正確な意味を理解しているわけではないかもしれませんが、あなたが考えているよりはわかっているかもしれませんよ。もっと大切なことは、愛犬はあなたの愛情を理解できるということです。愛犬に愛を伝える時になんだか間が抜けたように感じる必要はまったくありません。

筆者紹介

ジーン・マリー・バウハウス

ジーン・マリー・バウハウス

 

ジーン・マリー・バウハウスは、オクラホマ州タルサでペットを飼うペットブロガー。膝に乗せた愛猫や愛犬の指導のもと、執筆活動に勤しんでいます。

 

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