犬の生食ってどうなの?

執筆: ジーン・マリー・バウハウス
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ペットに最適なフードを見つけましょう。

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犬に生の肉を与える、通称「生食」について聞いたことのある飼い主さんも多いことでしょう。何となくおいしそうに聞こえますし、周囲の犬友さんたちが健康にいいと話していたりすると、愛犬にも与えたほうがいいのかな・・・と思ったりすることもあるかもしれませんね。PetMDによると、犬の生食を支持する人たちは、犬が生物学的に肉食のオオカミに近い種であることを根拠に、生食には素材本来が持つ栄養素が多く含まれ、皮膚や被毛、歯をより健康的に保ち、吸収がよく便が少なくなり、犬がさらに活発になるといったメリットがあると主張しているようです。けれども、その主張を裏付ける科学的証拠はほとんどなく、実は犬の生肉食に関する科学的調査の多くは、メリットがあるどころか有害であることを示しています。

犬はオオカミではない

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生食の人気を支えているのは、犬の先祖はオオカミなのだから、犬も自然の摂理を考えれば野生の先祖と同じ食事を摂るべき、という考え方です。つまり、オオカミが肉食なので(肉だけを食べるということ)、犬にも肉食用の食事を与えるべきだという考えです。

『サイエンス』誌 は、犬は実際には遺伝的にオオカミとは異なるため、この考え方には問題があると指摘しています。犬はオオカミから枝分かれして、何千年も前に人間に飼われるようになりました。それからは人間とともに進化の道をたどり、人間が食べる物の多くを犬も食べられるように適応したのです。 ネイチャー誌に掲載された遺伝子研究者たちによる研究では、肉とデンプンから成る食事に犬たちが遺伝的に適応していった明確な証拠が紹介されています。犬をまるで従順なオオカミと同じかのように扱って生肉しか与えない場合、犬の健康に欠かせないビタミンや栄養素が不足してしまうかもしれないのです。また、こうした食事は犬にだけでなく人間にも深刻な健康リスクをもたらす可能性があります。

犬の生食で注意すること

アメリカ食品医薬品局(FDA)が2010年から2012年にかけて2年がかりで行った研究によると、生食のペットフードはほかのタイプのペットフードに比べ、食中毒を引き起こすサルモネラ菌やリステリア菌といった細菌が含まれる確率が高いことがわかりました。この研究を受け、FDAはペットに生食を与える公衆衛生上のリスクについて警告を発しており、さらにアメリカ動物病院協会(AAHA)などの獣医師団体やアメリカ獣医医師会(AVMA)も、病原微生物に対して適切な処理をされていない生肉主体の食事を犬に与えないよう勧めています。

サルモネラ菌や大腸菌、その他の病原菌に感染した生肉で問題になるのは、それを犬が食べて食中毒になる可能性ももちろんそうですが、実はむしろその犬自体が保菌者となる可能性のほうが高いことだとThe Whole Dog Journal は警告しています。感染源の細菌は犬が発病する前に胃酸によって無毒化されるかもしれませんが、犬自身がその保菌している菌をほかの犬や人に接触によってうつしてしまう可能性があるのです。さらに厄介なことがあります。2011年にThe Canadian Veterinary Journal に発表された研究によると、生肉を食べている犬で見つかったサルモネラ菌の多くが抗生物質に耐性のあるタイプであることがわかったのです。

生食にはまだ心配なことがあります。食品からきちんと取り除かれなかった骨や異物が残っている場合があり、そのせいで犬がのどを詰まらせたり腸を傷つけたりする危険があるのです。また、生食では子犬の成長に欠かせない適切な量のカルシウムやリン、ビタミンDを十分に摂取できません。たとえばカルシウムの摂取量が足りないと、骨格の障害を抱えるリスクがあります。

バランスのとれた栄養

ティーンエイ ジャーのご飯と肉の皿を見つめる子犬
生食では犬にとってバランスのいい栄養が摂取できないということも、生食に関して心配されていることの一つです。アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)は、特別に栄養を調節した食事が必要な病気とは無縁の健康な犬たちには、たんぱく質、水分、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルをバランスよく含む食事を与えることを勧めています。高品質なドッグフードはこうしたニーズを適切に満たすように特別に設計されています。さらに、犬の栄養ニーズはライフステージごとに変わるので、ドッグフードは通常、犬の成長段階に合わせて作られたものがラインナップされています。

生食を支持する人たちの多くは、犬の食事を生食に変えてから愛犬の皮膚や被毛の状態が良くなったと主張しています。でももしかしたら、以前患っていた皮膚疾患は、以前のフードは愛犬の栄養ニーズに見合っていなかった、あるいは以前は何らかの環境要因があったが今はなくなった、もしくは以前のドッグフードに含まれていた何らかの原材料が合わず、拒否反応が出ていた、といったことで起きていたのかもしれません。かわりに品質が高く、個別の栄養ニーズに見合った、バランスの整ったドッグフードに切り替えたとしても、同様に改善していたでしょうし、さらに適切な栄養バランスをしっかり摂取することができるでしょう。

生食を与えるときの注意

一般的に犬の生食については様々なリスクがあって、健康上のメリットを裏付けるような科学的な証拠が乏しいことをお伝えしてきました。それでも、生食が気に入っていて、どうしても犬には生食を与えたいと考える方々には、以下のFDAが推奨する安全ガイドラインを参考にするようにしてください。ご自身とご家族、そして愛犬の感染リスクを減らすことができます。

  • 生食のペットフードを扱っているときは、顔や口元に触れないようにする。
  • 生肉を触ったあとは、せっけんと水で手をしっかり洗う。
  • 生食のペットフードに触れたものはすべて洗浄して消毒する。FDAは洗剤と水で洗ったあと、希釈した塩素系漂白剤で消毒することを推奨しています。
  • 生の肉類は使用するまで冷凍する(冷凍によって細菌を完全に殺せるわけではありません。サルモネラ菌や大腸菌は、しばしば低温にも耐えることができます)。冷凍肉は、調理台やシンクではなく、冷蔵庫や電子レンジで解凍する。
  • 生の肉類は注意して扱い、ドリップが飛び散らないようにする。
  • ペットが食べ残した場合、すぐに冷蔵庫に移すか、取り扱いに注意して処分する。
  • 犬の口やその付近にキスしない。犬にも顔をなめさせない。
  • 犬に触ったりなめられたりしたら、かならず顔や手を洗う。

犬の食事を扱う際には、使い捨ての手袋を着用したり、使い捨ての食器で食事を与えるのもいいアイデアです。幼児や高齢者は特に食中毒になりやすいため、このようなタイプのドッグフードに絶対に触れることがないように注意しましょう。

犬のウンチも汚染源になる可能性があります。ウンチに直接触れないように注意して回収し、安全に処理しましょう。そのあとは、せっけんと水でしっかり手を洗います。

ここでご紹介した科学的証拠についての情報を聞いたあとに、生食の話題が出ることがあれば、その時はきっと、ご自身で正しい判断ができることでしょう。熱心な生食支持者の方々には、独自の考えがあるのだとは思いますが、何よりも大事なのは愛犬と家族の安全です。人間もそうですが、犬も個々に体質が違いますから、フード選びに迷った時はどのタイプの食事を与えるのが一番いいのか、獣医師に相談してみるといいでしょう。

筆者紹介

Jean Marie Bauhaus

ジーン・マリー・バウハウス

ジーン・マリー・バウハウス オクラホマ州タルサ在住のペットブロガー兼小説家。いつもペットたちに見守られながら執筆活動に勤しんでいる。

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