今こそ知っておきたいペットのマイクロバイオーム(腸内細菌叢)について

執筆: サラ・ウーテン獣医師
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人間の体内や体表にいる細菌は、全身の細胞の数よりも多いことをご存知ですか?これは、私たちの愛するペットも同じ。犬と猫の体内にある腸内生態系「マイクロバイオーム(腸内細菌叢)」はペットと共生関係にあり、腸内だけでなく全身の健康状態に影響を与えることが科学的に示されています。

マイクロバイオーム(腸内細菌叢)とは?

「マイクロバイオーム」という言葉の「マイクロ」は「小さい」という意味。「バイオーム」は生態系に生息する生き物のコミュニティを指します。つまり、犬や猫のマイクロバイオームとは、「体の生態系を占める細菌、ウイルス、真菌、および原生動物のような微生物の集団」であると考えれば理解しやすいでしょう。腸内細菌についてはよく耳にしますが、皮膚、口腔、メスの生殖器系、気道に生息する細菌もあるのです。

一定数の「良い」腸内細菌(善玉菌)は健康に役立ちますが、病気を引き起こす可能性のある「悪い」腸内細菌(悪玉菌)もあります。大部分のマイクロバイオーム(腸内細菌叢)は結腸に住み、機能しています。善玉菌が悪玉菌よりも多く、悪玉菌を抑制していれば健康な状態ですが、悪玉菌が善玉菌を上回り始めると、病気が発生します。犬と猫のマイクロバイオーム(腸内細菌叢)において、善玉菌は正常な身体機能を助ける役割を果たしています。

犬と猫の腸にあるマイクロバイオーム(腸内細菌叢)はそれぞれに独自のもの。Microbiome Journal誌 に発表された最近の研究では、人間のマイクロバイオーム(腸内細菌叢)はブタやマウスよりも犬のマイクロバイオーム(腸内細菌叢)と類似していることが示されました。共に暮らし、同じような食習慣を持っている者同士のマイクロバイオーム(腸内細菌叢)はある程度似ていますが、各個人/個体のマイクロバイオームは少しの差があります。しかし、Journal of Veterinary Internal Medicine誌 によると、細菌は異なっていてもそれぞれのマイクロバイオーム(腸内細菌叢)の重要な機能には、代謝のように同じ機能を果たす類似性があることが記載されています。

ペットのマイクロバイオーム(腸内細菌叢)はどのように発達するのでしょう

犬や猫は、マイクロバイオーム(腸内細菌叢)を生まれ持っていません。生まれた直後に、母親や周囲の環境によって作られ始めるのです。ペットのマイクロバイオーム(腸内細菌叢)は、日々接触するおもちゃや食物、屋内外の環境、そして飼い主といったさまざまなものから構築されていきます。

子犬や子猫の成長とともに、マイクロバイオーム(腸内細菌叢)も変化および成熟します。マイクロバイオーム(腸内細菌叢)は、病気や不適切な栄養で不健康な状態にならない限り、ほとんどの成犬や成猫で安定しています。

マイクロバイオーム(腸内細菌叢)はペットの健康にどのように影響するのでしょう

腸内細菌は消化を助けるだけではありません。ビタミンや必須アミノ酸を合成し、感染を防ぎ、免疫系を強化し、全身の健康をサポートするのです。研究により、腸内細菌叢と糖尿病、心臓病、喘息のような自己免疫疾患、アレルギー、炎症性腸症や大腸炎などの胃腸疾患、およびその他の健康状態との相関関係が示されています。また、マイクロバイオーム(腸内細菌叢)は人の気分にも影響を及ぼすということもわかっており、腸内細菌叢が変調をきたして鬱状態になるケースもあります。さらに、Trends in Cancer誌 の最近の研究では、マイクロバイオーム(腸内細菌叢)が癌の発生と転移にもたらす影響について調査しています。マイクロバイオーム(腸内細菌叢)は、肥満の影響を受けることもあり、アメリカ微生物学会 の研究で肥満の犬においてマイクロバイオーム(腸内細菌叢)の異常が見つかっています。

マイクロバイオーム(腸内細菌叢)はペットにおける体のほぼすべての組織に影響を与える可能性があるもので、バランスの取れたマイクロバイオーム(腸内細菌叢)は全身の健康に不可欠といえるでしょう。愛犬や愛猫の腸から皮膚や口腔まで、マイクロバイオーム(腸内細菌叢)の影響は部位により異なります。善玉菌を促進したり悪玉菌の影響を抑えたりすることに、それぞれ少し異なるニーズがあります。研究者は現在、健康に問題のあるペットを対象にマイクロバイオーム治療の試験を実施しています。治療には、食事の変更、抗生物質、プロバイオティクス、および糞便マイクロバイオーム移植療法などのアプローチが採られています。

マイクロバイオーム(腸内細菌叢)に影響を与えるもの、それが栄養

食物は、犬や猫の健康とマイクロバイオーム(腸内細菌叢)のバランスに大きな影響を及ぼします。マイクロバイオーム(腸内細菌叢)のバランスが崩れると、消化器系のバランスも崩れ、下痢、嘔吐、便秘、食欲の変化、皮膚の問題、問題行動、気だるさなどの原因になることがあります。犬や猫のマイクロバイオーム(腸内細菌叢)は敏感で、食物、薬、ストレスなどのような環境の影響を受けがちです。また、単にフードを急に変えることさえも、マイクロバイオーム(腸内細菌叢)を変化させる要因となります。たんぱく質、脂肪、炭水化物、可溶性繊維、不溶性繊維の含有量が変わると、犬や猫のマイクロバイオーム(腸内細菌叢)に何等かの影響があったり、変化が生じたりするのです。

Cell Host & Microbe誌 によると、食物がマイクロバイオーム(腸内細菌叢)に及ぼす影響を示す最も有名な実験の1つは2008年に初めて実施されたことが記載されています。その実験は人のマイクロバイオーム(腸内細菌叢)からの微生物をマウスに移植した実験です。このマウスの餌を、植物性で低脂肪のものから高糖質・高脂肪のジャンクフードに切り替えると、マイクロバイオーム(腸内細菌叢)は1日も経たないうちに大幅に変化しました。

ペットにフードを与えるということは、ペットのマイクロバイオーム(腸内細菌叢)にも栄養を与えているということです。まだ研究の初期段階ではありますが、ペットのマイクロバイオーム(腸内細菌叢)を育むことで、全身健康に影響があることが日々明らかにされています。ヒルズのグローバルペットニュートリションセンターでは、科学者と栄養学者のチームが、特定の栄養素がペットのマイクロバイオーム(腸内細菌叢)と細胞に与える影響を関連付けることに取り組んでいます。栄養素と腸内細菌の関係を理解することは、健康なマイクロバイオーム(腸内細菌叢)、ひいてはペットの全身の健康もケアするフードの開発に役立つのです。

結論は明らかです。ペットの全身健康をケアするためには、ペットに住む何兆もの微生物が適切なバランスを維持しなければなりません。栄養は、犬や猫のマイクロバイオーム(腸内細菌叢)のバランスを維持し、全身健康をサポートする1つの方法なのです。

Contributor Bio

Dr. Sarah Wooten

サラ・ウーテン獣医師

サラ・ウーテン獣医師は、カリフォルニア大学デービス校獣医学部の2002年卒業生です。アメリカ獣医ジャーナリスト協会会員のウーテン獣医師は、コロラド州グリーリーで小動物病院を開業しながら、職場の人間関係問題、リーダーシップ、クライアントとのコミュニケーションについての講演活動や執筆活動も行っています。楽しみは、家族とのキャンプ、スキー、スキューバダイビング、そしてトライアスロンに参加することです。

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