犬の顔面神経麻痺について

執筆: ミンディ・コーハン獣医師
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犬にも顔面神経麻痺という病気があることに驚かれる飼い主さんも多いことでしょう。よく知られている症状は、片方の顔面、つまり耳や瞼、口元などが全体的に垂れ下がったように見えるというもので、うまく瞬きができなかったり、食事をうまくとることができずこぼしてしまったり、といったことがあります。片側で起こることが多いですが、両側に起こった場合には変化が分かりにくいこともあります。この病気について、犬での病態や原因、治療などをご紹介します。

Shephered mutt, one ear up and one ear down.

犬の顔面神経麻痺の病態と原因

顔面神経麻痺は、第7脳神経と呼ばれる顔面神経がなんらかのダメージを受けることによって生じます。顔面神経は、顔の筋肉、つまり瞼や鼻、耳や唇、頬を動かすための運動神経のほか、涙や唾液の分泌に関わる神経や、味覚に関係する神経から成り立っているため、これらに関わる部分に影響が出ます。麻痺は永続的、あるいは長期的に続くケースもあれば、数週間で回復するケースもあります。

犬の顔面神経麻痺の大半を占めるのは、特発性顔面神経麻痺で、原因が不明なものとされています。人の特発性顔面神経麻痺であるベル麻痺と同様の状態だと考えられていて、顔面神経以外に麻痺が認められず、そのほかの原因が除外されることによって診断されます。このほかに、以下のような原因が考えられています。

  • 中耳および内耳の感染症
  • 甲状腺機能低下症
  • 多発性の神経疾患や脳炎、あるいは頭部への外傷
  • 腫瘍。特に第7脳神経または脳幹に浸潤している、またはこれらを圧迫している腫瘍。
  • 毒素によるもの。Wag! によると、まれではあるものの、犬でも動物の死骸を摂取することによってボツリヌス中毒になってしまうことがあるようです。ボツリヌス中毒の症状は神経が傷害されることによる筋肉の麻痺や自律神経の障害です。

また、上記以外でも少数ながら外科手術によって偶発的に起こる医原性のものもあります。なお、発生頻度に性別の差は無いようですが、特定の犬種(コッカー・スパニエル、ビーグル、コーギー、ボクサー)では、他の犬種に比べて起こりやすいとも言われています。

症状

犬の顔面麻痺の症状は、その原因によって、顔の片側に現れることもあれば両側に現れることもあります。人の原因不明の顔面神経麻痺として知られているベル麻痺についてご存知の飼い主さんであれば、もし犬でそのような変化がおきたら、すぐに異変に気づくかもしれません。メイヨー・クリニック では、このベル麻痺について、原因不明ではあるものの、専門家は顔面神経の腫れや炎症が原因ではないかと指摘していると説明しています。犬の顔面神経麻痺でよく見られる症状は以下の通りです。

  • よだれ(顔面神経は唾液腺も制御しています)
  • 唇や耳の垂れ下がり
  • 正常な側への鼻の偏り(負傷側の筋肉の緊張が低下するため)
  • 罹患した側の眼の瞬きおよび閉鎖の不能
  • 口からの食べこぼし
  • ドライアイによる目やに

愛犬にこのような症状が見られた場合には、すぐに動物病院を受診しましょう。動物病院では、眼や耳、運動協調性を含む総合的な身体検査から、他の脳神経や全身性の神経学的問題のチェックなど、診断に必要な検査を受けることになります。

ドライアイに注意

獣医師の診察では、顔の罹患側の眼が瞬きできるかどうかが重要な検査になります。Pet Health Network は、犬の顔面神経麻痺の重大なリスクは、一般的にドライアイと呼ばれる乾性角結膜炎だと指摘しています。この病態は、犬が涙を十分に作り出せないとき、または眼を閉じることができないときなどに起こります。

獣医師は、愛犬の眼が涙を十分に作り出せているかどうかを調べるために、シルマー涙液試験と呼ばれる検査を実施することもあります。ドライアイは角膜潰瘍につながるリスクがあるため、人工涙液などの点眼薬を処方されるでしょう。

診断のために行われるそのほかの検査

眼の状態の評価に加えて、獣医師は耳についても詳しく確認するでしょう。第7脳神経の線維は、脳内の起始点から、中耳の近くを通って顔面に至ります。一般的に行われる外耳道の検査は外耳炎の有無を確認することに役立ちますが、中耳、内耳、または脳に疾患が存在するかどうかを確定するためには、多くの場合、CTまたはMRI検査が必要になります。

場合によっては、第7脳神経に近接する第8脳神経(前庭・蝸牛神経)にも影響が及ぶことがあります。第8脳神経は、音と身体の平衡感覚に関する情報の両方を耳から脳に伝達します。Veterinary Partner では、第8脳神経の失調は、前庭疾患と呼ばれる神経症状を引き起こす、と説明しています。前庭疾患の症状には、不安定な歩様や脱力、頭部の傾き(斜頸)、眼振(眼の揺れ)などが含まれます。

獣医師は、愛犬の眼が涙を十分に作り出せているかどうかを調べるために、シルマー涙液試験と呼ばれる検査を実施することもあります。ドライアイは角膜潰瘍につながるリスクがあるため、人工涙液などの点眼薬を処方されるでしょう。

Albino dog with pink nose and tilted head.

治療

治療は、それぞれの原因に応じて行われるものですが、犬の特発性顔面神経麻痺には、出ている症状に対する支持療法以外に特異的な治療法はありません。特発性の場合には、ドライアイや瞬き不能に関連して起こる角膜障害を予防することが、ケアの重要な部分になります。罹患側の角膜の潤いを保つために人工涙液を処方されたときは、感染と角膜潰瘍を防ぐために1日数回点眼することが極めて重要です。麻痺していることによって痛みなどの症状が分かりにくいため、愛犬の眼の状況には常に注意して観察し、異変を感じたら獣医師に診てもらうようにしてください。角膜障害を治療せずに放置した場合、非常に深刻な角膜潰瘍に進行してしまう場合があります。

犬の中耳炎や内耳炎は、その多くが感染性の外耳炎から波及したものであると言われています。そのため、治療は耳道の洗浄や感染に対する適切な抗生物質による治療となります。詳細な検査によって耳道の構造変化やポリープ、腫瘍などが確認された場合には、外科的な治療が必要になる場合もあります。そのほか、検査によって明らかになったことに対して、獣医師から治療方針の提案や相談がなされるでしょう。

顔面神経麻痺の原因や病態によって、治療によって回復するケースもあれば、麻痺が永続的、あるいは長期的に残る場合もあります。特発性顔面神経麻痺の場合では、多くは急性の発症で、数週間程度で自然に回復することも多いようです。顔面のマッサージなどの理学療法が検討されることもあります。麻痺が残ったとしても、見た目の問題だけで犬のクオリティオブライフには大きく影響しないとも言われています。いずれにしても、異常に気づいたらすぐに対処することが大切です。

Contributor Bio

ミンディ・コーハン

ミンディ・コーハンは、ペンシルベニア大学獣医学部卒のフィラデルフィア地域の獣医師です。ジェムという名前の保護犬を飼っていて、ポッドキャストでアメリカ南北戦争とエイブラハム・リンカーンについて聴きながらジェムとのハイキングを楽しんでいます。

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