犬も感染症にかかる?ウイルスに負けない免疫力を高める方法は?

執筆者: 石田卓夫
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犬も感染症にかかるのか?

犬も他の動物と同じで感染症にかかります。感染症とは,ウイルス,細菌,カビなどの病原体が生体に侵入(感染)し,病気を起こしたり,他の動物に病原体を移すことを意味します。また,寄生虫病も広い意味で感染症に含まれます。細菌やカビ,あるいは寄生虫に対しては多くの場合,治療薬があるので万一感染しても薬で治療することが可能です。しかし,ウイルスに対する薬は犬ではまったくないので,感染させないようにすること,免疫によって感染を防ぐこと,あるいは感染しても免疫の力で回復することが頼みの綱です。

犬にはどのような感染症があるのでしょうか?

感染予防のために、ペットオーナーはどのような対策をすればいいでしょうか? 

犬の感染症としては,呼吸器では,症状として慢性の咳がみられるケンネルコフがあります。これは複数のウイルスや細菌が関与して,とくに集団飼育などの状況下でよくみられますが,ワクチンもあり,細菌感染は抗生物質で治療できます。細菌感染症の中で人と動物の共通感染症として重要なものにはレプトスピラ症があります。この細菌はネズミなどの野生動物が運び,感染した小動物を犬が食べたり,汚染された水を飲むことで感染しますが,細菌は高温にも凍結にも弱いため,比較的暖かい地方で夏が終わった秋口に発生する病気で,肝臓や腎臓が悪くなります。川沿いの散歩,あるいは発生が知られている公園などでの散歩は気を付ける必要がありますが,発生地域では夏に毎年1回ワクチン接種を行います。また発症した場合には抗生物質で治療します。感染した犬の尿には細菌が出る可能性があるので,他の犬も人間も注意が必要です。また,犬の繁殖施設などでまれに集団発生がみられるブルセラ症も人間に感染する細菌感染症です。犬では繁殖障害のような生殖器系の病気を起こしますが,ワクチンはなく,抗生物質による治療が有効です。家で犬が流産した場合には何らかの病原体の関与も疑われますので,ゴム手袋やマスクで自分を守って片付ける必要があります。同様に犬が家庭で流産する可能性のある病原体としては,細菌の仲間のリケッチャがあり,これは人間と動物にQ熱という病気を起こします。人間では風邪のような症状が主体で自然に治りますが,免疫の弱い老人などでは重篤化する可能性もあるので,心配な場合は動物は動物病院,人間は人間の病院を受診しましょう。

犬の全身性ウイルス感染症としてはまず狂犬病が有名ですが,現在わが国には発生がありません。狂犬病予防法で年1回のワクチン接種が義務付けられており,さらに海外からの動物輸入に際してマイクロチップによる個体識別と抗体価証明書など により厳重な検疫が行われています。また,免疫のない子犬がかかる致死的な全身性ウイルス感染症として,犬ジステンパーおよびパルボウイルス感染症があります。ジステンパーはくしゃみ鼻水,呼吸が苦しくなる肺炎,さらに下痢や神経症状を起こし,多くは死亡します。またパルボウイルス感染症では,激しい下痢が起こり,免疫のために働く白血球も攻撃されると,細菌感染が激しくなり,パルボウイルスに対する免疫もできなくなり,死亡することがあります。ただし,発症しない不顕性感染で終わる犬も多くあります。さらにアデノウイルス1型で起こる犬伝染性肝炎がありますが,これはわが国ではあまり流行がみられていません。そして多くの場合,生まれたての子犬は母犬からミルクを通してもらった抗体でこれらのウイルス感染症から守られていますが,その抗体がなくなると,いきなり無防備になります。また,抗体がある間はワクチンを接種しても十分な免疫ができません。そのために,これらの命を守る大切なワクチンは,子犬の間に複数回接種して,いつ母親由来の抗体が消失していても,子犬に正しい免疫がつけられるようにします。これが6週齢くらいから16週齢を越えるまで,大体3週から4週間隔で何回も接種する理由です。その後のワクチン接種は,レプトスピラの免疫が必要かどうかで異なりますが,一般的なウイルスのワクチンは3年以上あけて接種するのが世界小動物獣医師会(WSAVA)による国際的な推奨事項です。

犬が家族の一員として幸せに生きていくためには,感染症の予防と同じウエイトで社会化が重要です。すなわち,他の犬と喧嘩をしても,コマンドを聞かず道路に飛び出しても,犬が死亡する危険はあり,しつけのできていない犬は人間への危険性という問題で社会から容認されないのです。したがって,現代の獣医学では,子犬の簡単なしつけという問題も予防医学の一部として重要視されています。しっかりしたしつけは,後に開催されるしつけ教室や個別のカウンセリングによって行われるのですが,子犬の段階で病院に通うことに慣れる,人間に慣れる,他の犬に慣れるといった社会化を目的として,パピーパーティーが行われます。これは同じ発達段階の子犬とペットオーナーを病院に集めて行われる会合で,犬が家庭内で長く幸せな一生を送るための社会化,そして病院を怖がらないで動物医療の恩恵を受けることができるようにするため重要です。

ワクチン接種もしつけも同等に重要であると考えた場合に,どちらを優先すべきかという問題もあります。パピーパーティーはワクチン接種が完全に終わるのを待つのが理想的ですが,それではしつけにとって重要なタイミングを逃すことにもなるので,ワクチン接種を最低1~2回行って外を歩かせていないものという条件でパピーパーティーへの参加を募ることが多いのです。この条件では,ワクチンの効果は未だ完全ではないかもしれないが,床を次亜塩素酸で消毒して,人間も上履きに履き替える,手を洗ってから犬に触る,という注意でリスクは最小限にすることができ,子犬と子犬の家族達は,よい犬を育てようという共通の目標のために,リスクとそれを上回る効果を理解した上で,このような動物病院主導のパピーパーティーに参加すればよいでしょう。

この考え方の中に,実は感染症予防の原則が含まれているのです。もちろん免疫をつけることも重要ですが,たとえ免疫ができていなくとも,病原体と接触しなければ感染症は起こらないのです。したがって,感染症予防の原則は,病原体と触 れあわないようにすること,そして次に免疫をつけることです。このように抗菌剤などの薬物が効かないウイルス感染症では,感染させない,予防する,そして万一感染した場合でも回復を促すことが重要で,これらすべてに免疫が深く関わっています。免疫とは,体に備えられた防御システムで,感染症にかからないようにすること,感染症から早く回復することの両面で非常に大切です。

犬の寿命は小型犬,大型犬で異なり,小型犬は成長が早く,16歳くらいまでの長寿犬も多くみられますが,大型犬は成長はゆっくりで,老化は早く起こり,12歳くらいでかなりの高齢になってしまいます。それでも一般論として,犬の長寿を支えているのは,正しい栄養,正しい予防,そしてストレスを避けた生活です。正しい栄養はしっかりした体を作り,肝臓や腎臓,腸といった内臓に負担を掛けない意味で非常に重要ですが,実は免疫にも深く関わっているのです。すなわち,ここであげた栄養,ワクチン,ストレス回避,全てが免疫に関わっています。

ワクチンを接種して正しく免疫応答ができるためには,正しい栄養が必要です。病気からの回復のための免疫にも正しい栄養が不可欠です。免疫というのはリンパ球という細胞の働きそのもの,あるいはリンパ球が生産する抗体やサイトカインという蛋白の働きであり,これらすべてに食事から蛋白質を正しく供給することが必要なのです。家の中のよい環境でストレスなくぐっすりと眠ること,これも免疫を高めるために重要です。ストレスは副腎皮質ホルモンの分泌を促し,それが続くと免疫が低下します。犬にとっての一番のストレスは,他の犬との関係,人間の家族との関係がうまくいかないことです。別に犬が一番上に立っていなければならないわけではなく,尊敬する家族から愛情と食事をもらい,自分より下にいる同居犬が自分を尊敬してくれる,このように自分をとりまく環境がうまく回っていることでストレスなく生活できます。犬のストレスでは免疫の低下もありますが,人間と同じ大腸過敏症候群というストレス性の下痢が起こることもあります。このような下痢に対処できる,加水分解ミルクプロテインを含む消化器用の食事も動物病院で売られています。

犬にも感染症はこのようにたくさんありますが,それでも多くの犬たちは長寿となるまで幸せな生活を送っています。これは人間の知恵による予防医学が正しく実践されている証拠であり,犬の感染症対策の基本も結局は人間と同じと理解してください。ワクチンを正しく使う,感染源を避ける,良質の栄養を十分にとり,ストレスを避けてよく寝ることです。このような環境を犬のために用意すること,これがペットオーナーのできる感染症対策,言い換えれば犬を家族に迎い入れる上での責任なのです。

 

執筆者 プロフィール

石田卓夫

石田卓夫 農学博士 獣医師 JCVP認定病理医

現職 赤坂動物病院 医療ディレクター

  • 1973 国際基督教大学教養学部理學科卒業
  • 1976 日本獣医畜産大学獣医学部卒業
  • 1981  東京大学大学院農学系研究科博士課程修了 農学博士
  • 1981-82 東京大学医科学研究所助手
  • 1982-85 University of California, Davis,  獣医外科腫瘍学研究員
  • 1985-98 日本獣医畜産大学獣医学部講師,助教授
  • 1998-現在 赤坂動物病院 医療ディレクタ
  • 1998-現在 一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム(JBVP) 会長
  • 2007-2013 公益社団法人 日本動物病院協会 (JAHA))会長
  • 2013-現在 日本獣医がん学会 (JVCS) 会長
  • 2014-現在 ねこ医学会 (JSFM)会長

専門分野:獣医臨床病理学,獣医ウイルス学,獣医免疫学,再生医学

 

 

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