猫にもダウン症がある?

執筆: パティ・クリー獣医師
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猫にも人と同じようなダウン症というものがあるのかどうか、獣医師は質問される機会が増えています。ダウン症とは人で知られている染色体疾患です。

どうも事の発端は、顔に独特の特徴があり、特定の異常行動が見られる猫のことがソーシャルメディアに投稿されたことによって、インターネット上で広く知られるようになった、ということのようです。「ダウン症の猫」を飼っていると言ってソーシャルメディアに写真を投稿した飼い主たちによって、猫もダウン症になるのだ、という認識が広まったようです。それで、みなさん質問されるようなのです。

猫にもダウン症がある?

インターネット上ではこのような噂が広まっていますが、実を言うと猫はダウン症にはなりません。いうならば、猫はダウン症にはなり得ないのです。

はじめにダウン症について少し説明しておきましょう。ダウン症は、米国では毎年、新生児700人に1人の割合で発生しています。発達中の胎児の遺伝物質が誤って複製されることで発生し、21番目の染色体が1本多く(または不完全な21番目の染色体が)つくられてしまいます。この状態は、21トリソミーとも呼ばれています。

基本的に、染色体は各細胞内でDNAを束状にまとめて構造化し、細胞分裂の際に遺伝物質を伝達する役割を果たしています。ほかの染色体疾患と同様に、この1本多い21番目の染色体(または不完全な21番目の染色体)によって様々な器官が影響を受けるようになります。それによって先天性の障害が引き起こされ、ダウン症の方には比較的共通した身体的特徴が見られます。

全米ダウン症協会 によると、ダウン症の方には次のような特徴があります:

  • 筋肉の緊張が低い(体が柔らかい)
  • 身長が低い
  • 目がつり上がっている
  • 手のひらの中央に横に一直線の深いしわがある

ただし、すべてのダウン症の方に認められるというわけではありません。

ダウン症の猫がいない理由

人間には23組の染色体がありますが、それに対し猫は19組しかありません。つまり、猫が21番目の染色体を余分に持つことは明らかに不可能なのです。とはいっても、猫にもなんらかの染色体異常によって起こる染色体疾患が存在する可能性があります。

実際、1975年に米国の獣医師会が発行する 『American Journal of Veterinary Research』 において、珍しい染色体異常がオス猫で発見されたことが発表されました。この異常により猫は余分な染色体を1本持つことになり、その結果、人間のクラインフェルター症候群 に似た症状が現れます。これらの猫は非常に興味深い特徴を持っています。というのも、1本多い染色体というのが、被毛の色に影響を及ぼす遺伝物質と関わりがあるからです。それにより、三毛猫(「キャリコ」「べっ甲猫」とも呼ばれる)は、通常メス猫にしか見られない模様ですが、これらのオス猫は三毛猫になるのです。

ダウン症に似ている特徴

ある目立った特徴を持つ猫がインスタグラムに投稿されました。飼い主が通常とは異なる外見は余分な染色体によるものと紹介したため、インターネットでも大きな話題となりました。ただし、こうした染色体異常であるという主張が本当に遺伝子検査で確認されているかについては不明です。 

主張の内容に疑わしい点があり、かつ生物学的にも現実的でないにもかかわらず、「猫のダウン症」という言葉はすっかり有名になりました。ですが、獣医師団体としては猫のダウン症を獣医学的な病気として認めていませんし、さらに、身体的特徴や行動をもとに、人間の病気を動物の病気にあてはめることにも反対しています。それは、ダウン症の方々に対して失礼にあたると考えているためです。

そうは言っても、偏見や差別といった悪意は当然ありませんが、確かに「ダウン症(とされる)の猫」には、次のような典型的な特徴があります:

  • 鼻の幅が広い
  • 目がつり上がっている(目と目の間が離れていることもある)
  • 耳が小さいか、耳が通常の猫とは違う
  • 筋肉の緊張が低い
  • 歩行に問題がある
  • 排泄に問題がある(排尿または排便)
  • 聴力や視覚が弱い
  • 心臓に問題がある

身体や行動に異常が見られる猫

一方で、いわゆる「ダウン症(とされる)の猫」に見られる身体的特徴や異常な行動が、実は他の病気の症状で、遺伝とは無関係な場合もあります。

こういった猫の外見や行動は、感染症、神経疾患、先天性異常(奇形)、さらには外傷といった実に様々な問題から発生している可能性もあるのです。たとえば、子宮内で汎白血球減少症ウイルス(猫パルボウイルス)に感染すると、特有の身体・行動上の異常が見られるようになり、さらに、小脳形成不全も併発した場合は、ここに挙げた「ダウン症の猫」の行動や特徴の一部が現れることもあります。

また、母猫が繁殖機能に影響を及ぼすような特定の毒物や薬物にさらされた場合、子猫が様々な先天性形成異常を持って生まれ、顔のつくりや神経系などに異常が現れることもあります。さらに、特にまだ幼い時期の頭部や顔面への外傷が永久的な神経障害や顔面損傷の原因となり、それが先天的な障害であるかのように見えることもあります。

障害をもつ猫と暮らす

猫の行動や身体に異常が見られる場合は、その猫はいわゆる「障害をもつ猫」なのかもしれません。このような猫たちは、実際はダウン症でなくても、よく知らない人の目には、ダウン症特有の特徴を持っているように見えることがよくあります。

障害を持つ猫には、当然のことながらそれぞれの障害に合わせた適切なケアが必要です。段差や家具の角、同居動物などに配慮し、猫が心地よく過ごせるように環境を整えましょう。猫が生活するうえでの基本的なこと(毛づくろいや食事、飲水、排泄など)の介助や、視覚や聴覚の低下に伴うサポートが必要になることもあります。このような特別なケアが必要な猫を飼う場合は、医療や健康面についてしっかり理解しておくことが大切です。まずは、獣医師に相談し、協力を求めるようにしましょう。

そして、言うまでもなく何よりも大事なのは十分な愛情です。一緒に暮らしていくうちに、その猫の性格と同じように障害もその子の個性として、理解できるようになるはずです。愛されて、その子らしく不自由なく暮らしている猫の表情は、一緒に暮らしている家族をきっと笑顔にしてくれることでしょう。

Contributor Bio

パティ・クリー獣医師

ウェルズリー・カレッジとペンシルベニア大学獣医学部をともに優秀な成績で卒業。VMD/MBA二重学位プログラムの一環としてウォートン・ビジネススクールでMBAを取得。現在はフロリダ州マイアミのサンセット・アニマル・クリニックのオーナー。さらに、大の読書家でもあり、熱烈な編み物マニア、そして熱狂的なホットヨガファン、音楽マニア、市民ランナー、飽くなき美食家の顔ももつ。犬3匹、数え切れないほどの猫、2頭の保護ヤギ、そして愉快な雌鶏たちとサウスマイアミに居住。

著作は DrPattyKhuly.comSunsetVets.com に掲載。

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