ぽっこりしたのができてる?猫のヘルニアについて

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ヘルニアというと、腰の病気のイメージが強いかもしれませんが、そもそも"ヘルニア"とは脱出を意味するラテン語で、体内にある組織や臓器が本来の位置から脱出してしまった状態です。

猫が普通に4本足で立ったとき、お腹の部分の膨らみに気づくことがあるかもしれませんが、それは臍ヘルニアの可能性があります。猫のヘルニアに出会うことはそこまで多くはないかもしれませんが、猫のための知識としてご紹介します。

猫でみられるヘルニアとは?

メルク獣医マニュアル* によると、腹壁(お腹の部分)のヘルニアはあらゆる動物で認められ、猫も例外ではありません。お腹の周囲を覆う筋肉や筋膜が何らかの原因で欠損したり弱くなったりして、腹部の脂肪や臓器が脱出してしまうことで起こります。ヘルニアはその部位によって以下のような種類があります。

手術後の猫に包帯を巻く女性獣医師

  • 臍ヘルニア:ほとんどわからない小さなものから、かなり大きなものまで、さまざまな大きさがあります。本来閉じるはずの臍の穴が閉じずにお腹の脂肪などが外に出てきてしまうもので、いわゆるでべそです。その後成長の過程で塞がることもありますが、穴の大きさや脱出の程度、内容、痛みの有無等の状況によって手術が必要かどうか検討していくことになります。先天性のことがほとんどですが、交通事故などによってヘルニアになってしまうこともあります。
  • 鼠径ヘルニア:鼠径部(腿の付け根)に起こるヘルニアで、こちらも本来閉じるはずの穴が閉じずに脂肪などが脱出してしまうことで起こります。オスでもメスでも起こることがありますが、犬と異なり猫では稀です。
  • 横隔膜ヘルニア:腹腔と胸腔を隔てている横隔膜に生じるヘルニアです。猫では外傷性の場合と先天性の場合があり、先天性にはその発生部位により複数の種類があります。

VetRecordの記事によると、犬と猫の臍ヘルニアには遺伝的あるいは発生学的な素因があることが多く、比較的若い年齢で見つかることが多いものの、どの年齢でも起こることがあります。外傷性のヘルニアの原因としては交通事故や難産などがあり、外科手術後にヘルニアが起こることもあります。

猫のヘルニアの診断と治療

このようにヘルニアにもいろいろありますが、様子をみても大丈夫なものもあれば、すぐに処置が必要なケースもあります。ヘルニアが疑われる場合、獣医師は触診しその内容物の硬さや移動できるかなどを確認します。触診の状況によっては超音波検査やレントゲン(X線)検査が必要になることもあります。尚、横隔膜ヘルニアの確認には画像検査が必ず必要です。

臍ヘルニアや鼠径ヘルニアの場合、ヘルニアが小さければ、これ以上大きくならないか確認しながら経過観察されることも多く、急な変化や日常生活への影響がない限り、急いで何か処置が必要となる病気ではありません。若い年齢で見つかることが多いので、避妊や去勢手術を行う際に、同時に処置するケースが一般的です。横隔膜ヘルニアは基本外科手術の対象ですが、重症度や全身状態によって経過観察がなされることもあります。

手術台の上で猫の腹部を手術するスクラブ姿の獣医

臍ヘルニアや鼠径ヘルニアでは、ヘルニアが大きい、あるいは大きくなる、硬くなるなどの変化が見られたときには要注意です。臓器が脱出したままになったりねじれたりすることで、血行障害がおき命にかかわるケースもあるので、早めに手術を行う必要があります。変化に気づいたらすぐに動物病院を受診してください。

手術後の傷が腫れるケースについて

頻繁に起こることではありませんが、手術の際に切開した部分の傷が腫れたり膨らんできたりするケースがあります。この場合、次のようなことが考えられます。

  1. 体の自然な治癒過程の一環として、術後の傷はある程度の腫脹が認められることが予想されます。その程度は傷の大きさや深さ、部位、個体によって異なりますが、あまりにも腫れや膨らみが気になる場合には、すぐに獣医師に相談してください。可能性としては、漿液腫(手術部位の液体貯留)や腹壁瘢痕ヘルニア、あるいは術後の感染などが考えられます。腹壁瘢痕ヘルニアとは、体質や栄養状態などにより縫合した筋膜の強度が弱くなってしまうために、ヘルニアが生じてしまったものです。
  2. 縫合糸は体にとって異物であるため、多少の炎症反応が起こることがありますが、中には縫合糸に対して異物反応が強く出る体質を持つ猫もいます。術後の腫れや赤みが気になる場合には獣医師に相談してください。猫ということで、抜糸の必要ない、糸が表面に出ない埋没縫合をする獣医師もいます。
  3. 術後の治癒過程で、傷跡が厚く盛り上がった瘢痕組織が形成されることがあります。体質や何らかの物理的刺激によるものと考えれますが、気になる場合には獣医師に相談してください。
  4. 手術とはまったく関係ない場合もあります。腹部の手術では毛刈りを行いますが、被毛のために気付かなかったさまざまな腫瘤が見つかることがあります。

今回は、臍ヘルニアや鼠経ヘルニア、横隔膜ヘルニア、術後の腹壁瘢痕ヘルニアについてご紹介しました。あまり遭遇することはないかもしれませんが、何らかの膨らみに気づいたら、早めに動物病院を受診してくださいね。

*参照先:https://www.merckvetmanual.com/digestive-system/congenital-and-inherited-anomalies-involving-the-digestive-system/hernias-in-animals?autoredirectid=20413

Contributor Bio

ラシ・シャイブル獣医師

ラシ・シャイブル獣医師

テュレーン大学を卒業後、テキサスA&M大学獣医学部にて22歳の若さで獣医学学位を取得。飼い主に対する熱心な啓蒙活動をとおして数々の賞を受賞、獣医療における遠隔診療の第一人者と評されている。米国獣医内科学会、米国獣医外科学会を含む数多くの著名なペット・獣医療団体に寄稿。獣医療ソフトウェア会社Rhapsody.vetでは、チームをまとめ、獣医療関連の統括を行っている。