猫の腹部膨満について

執筆: ジェシカ・セイド(獣医師)
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腹部膨満とはお腹が膨れている状態のことを言い、猫にも様々な原因によって起こることがあります。成猫または子猫が腹部膨満を起こす病的な原因としては、腹部の臓器そのものが大きくなるケースや、お腹に水がたまってしまう腹水、または腹部腫瘤によるもの、消化管内寄生虫などが考えられますが、肥満によってそう見えることもあります。原因については、獣医師による身体検査で分かることもあれば、詳しい検査が必要になることもあります。

猫の腹部膨満の一般的な原因について、もう少し詳しくご説明します。

臓器が大きくなる

腹部膨満を引き起こす可能性のある臓器は、腹部に複数存在します。

肝臓、脾臓、腎臓

肝臓、脾臓、腎臓は腹部に存在する代表的な臓器です。これらの臓器が大きくなる原因には、ある種の感染症(特に真菌性疾患)や炎症によるもの、身体の他の部位に生じた疾患に対する反応として大きくなるなどのほか、良性あるいは悪性の腫瘍(原発性の単独腫瘤あるいは転移による浸潤などを含む)などがあります。

膀胱

膀胱は、腎臓で作られた尿をためておく臓器です。膀胱が異常に大きくなるということは、何らかの原因でうまく排尿できないことを示しており、これは尿路閉塞という命に関わる状態である可能性が高い兆候です。この病態は雄猫で見られることが多いですが、雌にも起こることがあります。

消化管

胃や腸に、ガスや液体、異物、場合によっては食物が充満して、腹部膨満の様相を呈することがあります。この場合に最も懸念されるのは、何らかの異物によって消化管内に閉塞が起きていることです。

子宮

未避妊の雌猫では、当然のことながら子宮が妊娠によって拡張することのほか、妊娠していなくても、液体や膿が子宮に溜まってしまうことによって病的に拡張することがあります。この状況はすぐに対処が必要な病態です。尚、子宮とは直接関係ありませんが、避妊手術後に一時的に腹部が腫れることがあります。これは、術後に猫が活動しすぎたり、縫合糸に対する生体の反応が起こったりすることで起こることがあります。そのため、術後の回復期には猫を確実に安静にさせておくことが重要で、腫れていることに気づいたら、すぐに獣医師に連絡しなければなりません。

腹水

お腹の中にある一定以上水がたまると、お腹が膨らんで見えるようになります。このような場合、獣医師の診察時の触診により液体の波動が認められます。

様々な疾患によって腹水が起こります。

  • 出血:腹腔内への出血は、腫瘍からの出血、内臓の外傷、血小板数減少または血小板機能異常症、抗凝固性殺鼠剤の摂取などから起こります。
  • 悪性腫瘍(がん):悪性腫瘍は、体液や場合によっては血液の腹腔内貯留を引き起こすことがあります。
  • 心不全:右心不全があると、効率的に血液を送り出すことができなくなり、その結果として腹水が溜まることがあります。心不全が疑われるときは緊急事態と考えて、直ちに検査を受ける必要があります。
  • 低タンパク血症:血液中のタンパク質が病的に低下してしまう病態で、体の中で十分に産生できない、あるいは何らかの原因で外に出て行ってしまうことにより起こります。一般的な原因として、肝不全や腎臓病または腸管の疾患に続発するケースや、飢餓や栄養不良により起こることもあります。体の中のタンパク質量のレベルが低くなりすぎると、体内の血管から水分が漏れやすくなって、腹水やその他の身体部分に液体が溜まる浮腫(むくみ)が見られるようになります。
  • 猫伝染性腹膜炎(FIP):FIPは猫で腹水を起こす代表的な疾患で、猫コロナウイルスが原因のウイルス性疾患です。決定的な治療法や予防法が確立されておらず、現在の獣医療では完治が難しい病の1つです。
  • 管腔構造をもつ臓器の破裂:膀胱、胆嚢、消化管など管腔構造を持つ臓器の破裂は、それぞれの臓器の液体内容物が漏れ出すことがあり、いずれも緊急を要する病態です。これらは一般的に、尿道閉塞、胆嚢閉塞、腸閉塞など、何らかの原因により管腔構造が妨げられた際に続発して起こります。

消化管内寄生虫

コーネル猫医療センターは消化管内に寄生虫がいる場合、猫のお腹が太鼓腹のようになることがある、という見解を示しています。子猫の腹部膨満の原因として、この消化管内寄生虫が原因であることがありますが、それは子猫の方が成猫よりも寄生虫による影響を受けやすいからです。猫に腸内寄生虫がいるかどうかは、多くの場合、動物病院で糞便検査をしてもらうことで分かります。その寄生虫の種類に合わせて適切な駆虫薬が処方されます。

Ginger baby cat sleeping on a chair arm

腹部腫瘤

多くの腹部臓器のいずれかに腫瘤が生じると、猫は腹部膨満になることがあります。腹部腫瘤は主に成猫に見られます。腹部腫瘤には良性のものも悪性のものもあるため、診断するためには詳しい検査が必要になります。

腫瘤の位置や大きさ、その種類に基づいて、切除する手術、化学療法、あるいは経過観察と、投薬による支持療法といった治療が選択されます。

診断

腹部膨満の診断には、状況に合わせて様々な検査が必要になります。腹部膨満で行われる検査には、全般的な血液検査、尿検査、腹部超音波検査・X線検査、胸部X線検査、貯留している内容物の評価、生検などが含まれます。場合によっては、より具体的な感染症の検査や臓器の詳しい検査が必要になることもあります。獣医師は、個々のペットの状態に応じて、必要な検査を選択し提案します。

治療

その原因に基づいて、適切な治療が選択されます。治療には外科的な処置や投薬治療が含まれますが、その優先順位やタイミングなどは、その原因疾患や病態レベル、および個々のケースの緊急性等によって異なります。難しい内容になることもあるかもしれませんが、できるだけペットの病態や治療について理解するように努め、わからないところは獣医師に尋ねましょう。飼い主としてできることは、普段からペットの様子をよく観察し、何らかの変化に気づいたときには動物病院を受診すること、そして病気の治療の際には指示された内容を遵守するようにすることです。疑問に思ったり、不安なことは自己判断せず、都度獣医師に相談するようにしましょう。

筆者紹介

ジェシカ・セイド

ジェシカ・セイド

ニューイングランド地域で開業している救急獣医師。ノースカロライナ州立大学獣医学部を卒業後、診療に従事してすでに十年あまりになります。診療時間外に、夫、娘、ペットのフレンチ・ブルドッグと過ごすことが何よりの楽しみとなっています。

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